からすぶろぐ

雑多な長文

Uncle Tom's Cabin 読了

「アンクルトムの小屋」英語版を先ほど読み終えた。

4月初旬から始めて今が8月中旬だからすでに5か月弱経過したわけか。

時間かかりすぎ・・・。

 

そもそもなんでこれ読むことにしたんだっけか?

 

記憶をたどってみると。

 

現在私が進めている英語学習において、洋書を読むことによってReadingスキルの向上を図る目的があった。Amazonのほしいものリストにあった書籍のうち、海外からの翻訳本から適当なものを探した。アンクルトムは古い翻訳しかなく絶版が多いため、値段が非常に高かった。特に自分がリストアップしたものは当時3万円と、目球が飛び出るほどの額だったので、洋書でさらに電子化したUncle Tomを選択することは経済的に意味があった。またUncle TomのEnglish Versionは非常に数が豊富で適切なLexile指数――英語書籍に設定されている英語の読解難易度のたぶん国際的な指標――の書籍を選択しやすかったこともある。

 

さらに記憶をたどるとドラえもんに行きつく。

ドラえもんを読んだとき、名前を忘れたが楽に読書する道具があってのび太出木杉君を訪ねた際に紹介された活字本のひとつが「アンクルトムの小屋」だった。歴史の教科書では文化史で19世紀の文学に羅列されてたから名前は知っていたが、名前の響きからもっと牧歌的な内容を想像していたのに彼の説明では「奴隷制度を鋭くえぐった内容」だそうで、意外にハードな内容だったのが印象に残っていた。

時が経ち、そのことを思い出したのでAmazonで検索したら値段が高かったので、政治的に同じく米国の黒人奴隷制度を批判しているフレデリック・ダグラスの自伝――元奴隷から反奴隷制度の社会運動家に成り上がった人物。こちらも世界史学習中に知った――だけを読むことにして、アンクルトムはほしいものリストに放り込まれた後数年して英語学習を開始して現在に至るというわけだ。

 

 

で実際読んだ作品が↓ね。

www.amazon.co.jp

 

表紙の感じからして簡単そうでLexileも650――小6程度らしい――と低い。これならいけそうかと始めてみたが、単語が全然わからぬ。

 

小学生水準の言葉が何故こんなにわからないのか?

考えるにこれは私の守備範囲外の分野の言葉が多いからであろうと推測した。

 

この作品。内容をざっくり説明すると、ある何人かの黒人奴隷がいて彼らが良い主人に会ったり悪い主人に遭ったりして、仕えたり逃亡したりぶち殺されたりするもので、トムさんはその奴隷の中でも信心深い博愛主義者だったという話。

で、そういう内容であるからして登場する語句は冷酷な主人が奴隷を痛めつけるとか家族を引き裂かれたどれが泣き叫ぶとか礼拝するとかという表現が19世紀米国南部の生活描写とともに何度も繰り出されるわけだ。けど、こちらの知ってる表現は教科書英語がほとんどでネガティブなニュアンスの言葉や宗教用語は全然習ってない。tormentとかhymnとか言われても何が何やらだ。

 

けど、Kindleには辞書もついてるから何とかなるだろと頑張って読む進めたが、わからない単語があまりに多すぎて開始後2週ぐらいして心が折れた・・・。

 

まあその後リブートしたので今があるわけだが、再開にあたって何らかの工夫を必要だった。そこで登場語句を片っ端から暗記することにした。

自分の英語学習に使っているウェブ辞書のWeblio、単語学習アプリのiKnowに不明単語を全部ぶち込んで暗記と読解を同時並行することにした。

英語学習の定石としては、リーディングに際してはわからない単語があってもそのまま読み進めるべきという考え方があるので、単語暗記を熱心にやるのは良い方法とは言えないのだが、自分のケースに関してはそれで最後まで読めたわけだから間違いではなかったのだろう。

 

読解を再開したのは6月終り頃。そのあと2か月かけて読み終えた。集積した登場語句は関連表現合わせて600個程度まで膨らんだ。読み進めながら気づいたが、この本の内容、日本語化するとたぶんすごく短い。2時間ぐらいで読めると思う。その程度の分量に不明表現が600もあるわけだからそりゃ心も折れるわ。たぶん単語暗記開始時に600個という数を知っていたらこの作品はそっ閉じされていたと思う(笑

 

 

さて英語学習の大変さをずいぶん語ってしまったが、私がこの作品をAmazonリストに載せたのはそもそも英語学習のためではない。私自身が奴隷制度の実態に関心があったからだ。で、簡易ではあるものの著名作品に触れたおかげで私の内面で改まったことがある。それについて少し書こう。

 

私はこれまで海外欄のニュースを通じて米国での反黒人差別の社会運動を見てきた。しかしそれに対してパフォーマンス的な印象を持っていた。脚色された大げさな感じがして少し嘘くさいような感想を持っていたわけだ。けれど、アンクルトムを読んだ後では少し見方が変わった。なぜなら、その「大げささ」の起源がおそらくどこから来たのか理解したからだ。この作品がそれである。

アンクルトムは小説、フィクションである。先に読了したノンフィクションであるフレデリック・ダグラスと比較して著しくデタラメだとも感じないが、キャラクター性を強調しているとは思える。要するに善玉と悪玉がはっきりし過ぎているのだ。

虐げられる奴隷たちはおおむね善人で使役する何人かの主人や奴隷商人は極悪人のクズ。ダグラスの話によると奴隷を退屈にしのぎにぶち殺すような極悪主人は実際存在したらしいのでこうした人物像はデタラメではないのだが、それにしてもクズが多すぎる気がした。頭おかしいんじゃないかというのもいたし・・・。

けど、全体として話がよく練られて完成度が高いから、「フィクションだよな」と思いつつもクズ商人には怒りを覚えるし、トムさんの博愛主義に感動するわけだ。私自身読解というよりは解読に近い読書の中で泣きそうになったシーンがいくつもある。それほどの力がこの作品にはあるのだ。

 

だからこそか。この作品は米国・英国社会に非常に大きな影響を与えたそうだ。初年度に50万部を刷ったというから大変な人気だが、のちにエイブラハム・リンカーンが著者であるハリエット・ビーチャ・ストウと会談して「あなたが南北戦争を起こした張本人ですか?」と尋ねたらしいので、そこからも影響の大きさが窺える。

またこのエントリーの最初の方に少し書いたように、この書籍を購入した際非常に大量の英語版が検索されたわけだが、そのそもそもの理由はこの作品が過去から現在に至るまでの米国政治に重要な影響を与えていたためでもあるわけだ。

 

アンクルトムにの小屋には様々な人物像が登場する。そこでは奴隷制度をめぐっての多様な見解が披露され、その中で奴隷制度は結局悪なのだということが浮き彫りにされていく。こうした過程が政治的なアジテートの効果をもたらしたのであろうということが読んだうえでの私の感想だ。

 

アンクルトムの読解お休み中にマーティン・ルーサー・キングの「I have a dream」演説の書き取り練習をしていた。これも非常に優れた内容だが、それ以外の演説と比較するとパフォーマンスチックなところがあるのも確かなんだな。

 

 

長々と書き連ねて何が言いたいかというと、現在まで展開されている黒人社会による反人種差別運動の特徴的な空気はハリエット・ストウ以来のこの社会の「伝統」なのではないかということだ。そう思えばパフォーマンスも感慨を持って見ることができるのである。